前編:「自分ができることを」デュアルキャリア消防官の選んだ道。~アイスホッケー選手 長井草樹~
GUEST
長井草樹(しげき)

アイスホッケー選手。江戸川アーマーズJrの低学年監督として、子どもたちへアイスホッケーの指導・普及を行う。また、消防官として勤務し、スポーツと仕事の両立に取り組んでいる。
江戸川アーマーズJr
サイト:http://r.goope.jp/edogawa-armors
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目次(前編)
■アイスホッケー選手の道を歩く理由
■『氷上の格闘技』と呼ばれるアイスホッケーの特徴とは?
アイスホッケーの選手・指導者と消防官のデュアルキャリアを実践する長井さん。
日本ではまだマイナースポーツであるアイスホッケーですが、迫力やスピード感は他の競技よりも群を抜く魅力があります。
トップリーグではなく公務員の道を選んだ理由、そしてデュアルキャリアを選んだ理由をお聞きしました。
アイスホッケー選手の道を歩く理由
―長井さんがアイスホッケーを始めたキッカケを教えてください。
日本でアイスホッケーに出会うのは珍しいと思います。
私の場合、親戚の影響で小学2年生からアイスホッケーを始めました。
他にもスイミングや野球、剣道、サッカーを習っていました。書道などスポーツ以外にも多くの習い事をしていました。

「何でもやってから考えてみなさい」という親の教育方針で、小さい頃から色々と取り組みました。週全ての曜日が習い事で埋まり、小さい頃から忙しくしていたと記憶しています。
―数ある取り組んだ競技の中でアイスホッケーの道を選んだきっかけはあったのでしょうか?
アイスホッケーを始めた時は、競技をここまで長く続ける意思はありませんでした。
アイスホッケーの道を選択した理由は、他に類を見ない魅力に気付き、取り組む時間が長かったことに加え、小学生ながら成長や達成感を覚え、また、努力は認められることを感じ取れたからです。
氷上練習が週3日と、他のスポーツよりも取り組む時間が多く、私は小学3年生の時には既に、高学年の練習に参加していました。一生懸命練習すれば熱量は認められると感じた瞬間でした。
―現在も選手として活動されていますが、アイスホッケーという競技のどの部分に惹かれたでしょうか?
陸上のスポーツとは異なり、アイスホッケーのスピード感は群を抜いています。スケートの速度は平均30km/h、またシュート時のパックスピードは170㎞/hを超え、そのスピードで行われるコンタクト(体を激しくぶつけあう)プレーはとても迫力があり、まさに氷上の格闘技です。
『氷上の格闘技』と呼ばれるアイスホッケーの特徴とは?
―ここで、アイスホッケーという競技について教えてください。
タテ約60m×ヨコ約30mの四隅が丸くなった長方形のリンクです。周囲には『ボード(フェンス)』と呼ばれる囲いが施されています。

他のスポーツと大きく異なる点は、攻守の切り替えが250~350回起こるため、ゴール間を行き交う回数はスポーツのなかでもトップクラスの速い展開が行われています。
アイスホッケーのメンバーは国際ルールで22名です。プレーヤー5人が4セット、そしてゴーリー2人で編成されています。
選手交代が自由にできることも特徴の一つだと思います。大人のゲーム展開の場合、45秒~60秒で選手が交代します。身体への負担が大きく、そのスピード感と相手とのコンタクトにより自重の3倍の重力が身体にかかることもあります。
選手交代を繰り返すことで体力を温存・回復し、常に良いコンディションでスピーディーに戦うことが狙いです。
―確かにアイスホッケーは激しいコンタクトスポーツで迫力があります。余談ですが、小学生の頃からコンタクトプレーがあったのでしょうか?
私の幼少期はありました。現在(平成30年以降)は小学生以下のコンタクトプレーは認められません。選手は体がぶつかる直前でスピードコントロールします。発育発達期のコンタクトプレーは脳神経にとても危険なためです。

私が小学生の時代はコンタクトプレーが数多くありました。当時は低学年でチーム編成ができるほど選手が多くはなかったものの、高学年に混ざってプレーしていました。練習、試合後はいつも全身に痛みと疲労があったことを覚えています(笑)
―アイスホッケーで特徴的なシーンと言えば、『乱闘』だと思います。実際に日本の選手同士でもあるのでしょうか?
仰る通りで、アイスホッケーでは国際ルールにより乱闘が容認されています(子どもたちはNG)。もちろん、危険な行為には変わりありません。ただし、乱闘にも絶対的なルールやマナーがあり、乱闘は選手同士1対1で行います。とはいえ乱闘をしている選手同士は罰則が与えられ、乱闘に加わってしまった選手がいる場合は乱闘を起こした選手よりも罰則が重たくなります。乱闘もフェアが1番のルールなのです(笑)
それでも、レフェリーは乱闘が終わるまで見守ります。
実は乱闘が起きるきっかけには幾つかあり、「ルール外のコンタクト(ラフプレー)」が起きたとき、「ゴーリーを守るため(仲間を守る)、」「味方主力選手を負傷させるプレー」により乱闘が始まります。北米では戦術として取り入れられることも少なくありません。
これもアイスホッケーの競技特性の一つであり、そんな乱闘にも正当なルールがあるのです。どちらかがリンクに倒れる、力尽きれば綺麗に終わる。北米ではグローブを必ず外す。など、これが認められたルールなのです(笑)
―日本のアイスホッケーに取り組む環境はいかがでしょうか?
このインタビューに臨むにあたり、日本におけるアイスホッケーの普及・拡大に向けた課題を改めて考え、また多くの方々と協議してきました。
日本において、まだまだアイスホッケーは普及しておりません。
理由として、まず施設運営が難しく、アイスリンクを保有できない状況が前面にあります。リンクの維持費が掛かる上に、技術発展が進歩せずリンク設営には膨大な費用が掛かります。
もう一つの理由は、前述を背景に競技人口が2万人程度しかおらず、他のマイナースポーツよりも競技者が少ないことです。
長野五輪(1998年)以降、企業が所有していたチームの発展がうまくいかず、日本アイスホッケーの成長が停滞しました。
今までは実業団チームが日本リーグを支えていましたが、あくまでも会社のモチベーション・団結力を上げる組織でしかなく、会社の利益に結び付けることができません。アイスホッケーチームを持つメリットを会社が感じることが出来ず、経済状況が悪くなると、真っ先にスポーツチーム(アイスホッケー)が削減対象となり、2000年以降は企業チームが減りました。
アイスホッケーは、試合会場など少ないため、観客(ファン)との距離が遠いことも原因だと思います。根本として大陸の特性や日本の気候(温帯)も関係しており、国内では比較的リンクの多い北日本や北海道を中心に発展しています。
・・・後半へ続きます