フットサル日本代表キャプテンに聞く「責任と誇り」とは ~フットサル選手 星 翔太~
GUEST
星 翔太(ほし しょうた)

フットサル日本代表選手。Fリーグ『名古屋オーシャンズ』でプレーする。
株式会社アスラボの代表取締役を務める。
経歴
■ 2004年-2005年 森のくまさん
■ 2004年-2009年 BOTSWANA FC MEGURO/FUGA MEGURO
■ 2009年-2010年 バルドラール浦安
■ 2010年-2011年 GESTESAグアダラハラFS(スペイン)
■ 2011年-2012年 FSマルフィル・サンタ・コロマ(スペイン)
■ 2012年 アル・ラーヤンSC(カタール)
■ 2012年-2018年 バルドラール浦安
■ 2018年- 名古屋オーシャンズ
目次
■自分の道を求めて出会ったフットサル
■プロとしての想い、日本代表としての誇り
■社会で活躍するスポーツ選手とは
■フットサルを盛り上げるために
自分の道を求めて出会ったフットサル
-日本代表や名古屋オーシャンズなど、日本フットサルの第一線で活躍されている星さんですが、もともとはサッカーに取り組んでいたとお聞きしました。フットサルを始めたのはいつからなのでしょうか?
フットサルは大学生の時に始めました。
高校卒業までサッカーをやっていたので、大学でもサッカー部へ所属しようと考えていました。
ただ、私が入学したタイミングがチームの組織が大幅に変わる時期であり、何か閉塞感を感じていました。また、大学では「何事も自分の力で決めたい」と考えていた私はサッカー部を退部しました。
次の道を探すために、総合格闘技、カポエラ、空手、テニスなどサークルを渡り歩きましたが、どれもサッカーを超えるほど熱中できるものがない日々が続きました。
そんな中、古くから付き合いのある先輩から『森のくまさん』というフットサルチームの練習に誘われ、参加したことがきっかけでフットサルを始めました。
また、フットサルを始めた当時に「フットサルの方が日本代表になれるチャンスがある」と聞いたこともあり、日本代表を目指すようになりました。もともとサッカーで日本代表になりたいという気持ちを持っていたので、チャレンジしようと思いました。

-フットサルを始めてすぐに関東フットサルリーグ史上初の3冠など輝かしい成績を収められています。思い出に残っていることはありますか?
振り返れば怪我をしたまま試合に出場していました。
試合3日前にひどい捻挫をして出場し、ゴールを決めたり、プロ選手になっても前十字靭帯を断裂して完治前に無理やり試合に出場して決勝ゴールを決めたこともあります。
満身創痍で挑んでいましたね。
-窮地で力を発揮する時の心理はどのような状態なのでしょうか?
今の自分ができることをやろうと集中していますね。もしかしたら、コンディションが最高ではないからこそ、力が発揮できるのかもしれません。
おそらく、不調(怪我)の時は自分にできることが限られているので、できることに集中するから無駄な力が入らないですし、集中力が増すのだと思います。
逆に、最高のコンディションの場合、自分のキャパシティ以上に出来ることが増えてしまうので、その分ミスが増えますし「もっとできる」と変に欲を出してしまうから空回りしてしまうと思います。
私もここ数年は自分の身体と向き合いできることに集中してプレーしています。
プロとしての想い、日本代表としての誇り
-プロ選手として活動をされていますが、日本フットサルの世界ではデュアルキャリア(スポーツと仕事の両立)を実践する選手が多くいらっしゃいます。星さんが考える『プロ』とはどのようにお考えでしょうか?
お客様がお金を払って試合を見に来る時点で、自分はプロだと考えています。自分のパフォーマンスで人に感動を与えられる存在はプロだと思っていますし、感情を込めたプレーを心掛けています。
-代表歴が長い星さんにお聞きしたい質問です。Fリーグのチーム(名古屋オーシャンズ)と日本代表は違うものなのでしょうか?
全く違いますね。
私はプロ選手歴=代表歴なので、両方の世界を見てきましたが、日本代表は所属クラブでは経験できないものだと思います。
日本代表は入りたいと思っても、ずっと居ることができる場所ではないと思います。極端に言えば、自分でチームを立ち上げればFリーグの選手になれますが、日本代表はいくらお金を支払ってもなれないという価値があります。

初めて日の丸をつけて国歌斉唱した時は体が震えたことを覚えています。言葉にうまく表現ができないのですが、特別な感情になりました。
長く代表に在籍することで感じたことですが、日本代表としての責任や誇りは、積み重ねた練習、メンバーとの競争、仲間の絆など、様々な経験から生まれてくるものだと思います。
簡単に言葉にはできない特別なものを得ることができたと思っています。
-2009年からFリーガーとしての活動をスタートされました。当時、今よりもフットサルが定着していなかったと思いますが、Fリーガーとして活動することに不安などありましたでしょうか?
もともとフットサル選手だけでは生活できないと思っていたので、不安はありませんでした。むしろ、どんなチャレンジをして、何を得ることができるかを考えてワクワクしていたと思います。
父からの言葉もフットサル選手として活動することに勇気づけられたと思います。
就職を考えていた時に、父から「別に就職をしなくてもいいのでは」と言われました。当時、やりたいことは特になく、漠然と営業をすれば良いかなと考えていたところ、「就職(営業活動)はやろうと思えばいつでもできる。ただ、フットサル選手として活動できるのは限られた人しかいない。その立場にいるならフットサル選手の道をチャレンジした方が良い」という言葉に背中を押されました。
「いくら貰うか」ではなく、「何を経験するか」という考えにシフトチェンジしたので、不安はなかったです。
社会で活躍するスポーツ選手とは
-そこで得た経験が後の人生に活きてくると思います。スポーツ選手が社会で活躍するためにはどのようなことが必要だと思いますか?
私は競技以外の時間をどのように使うのかが重要だと思っています。
スポーツ選手は怪我が付き物で、大きな怪我の場合、競技活動が終わってしまう一定のリスクが伴います。
怪我をした場合、そのリハビリ期間は自分と向き合う時間にするべきだと思います。怪我にどう立ち向かうかを学びながら、怪我をする前の自分よりも強くなれるチャンスととらえる時期だと思います。
そして、怪我を治すこと以外にも、家族と過ごす時間や旅行へ行ったり、映画を見たりと娯楽も含めて人として必要な『人間活動』も大切にするべきです。

この『人間活動』を通じて得たことがスポーツ選手として大きく成長させると思います。怪我をしている期間はトレーニング以外のことにも取り組んでいると思います。競技の理解を深めたり、将来のことを考えて勉強するなど様々な取り組みを行っているはずです。
スポーツ選手が評価されるのは試合でのパフォーマンスや結果のみ。それ以外のことは評価されにくい環境にあります。
社会で活躍するためには、競技以外の時間をどのように過ごすかが大事なことだと思います。
スポーツ選手はサラリーマンの方と比べると競技以外(練習や試合)の自身でコントロールできる時間が多いと思います。そして、その時間は競技や仕事と結びついている可能性が高いはずです。
選手のバックボーンこそ価値のあることだと知るべきだと思いますし、選手自らも色々な取り組みを発信し、競技以外のことに取り組むことに価値があるということを伝えるべきだと考えています。
-フットサル界の第一線で戦ってきた星さんだからこそ感じる優秀な選手の特徴や考え方はあるのでしょうか?
優秀な選手は「評価は他人がしている」ということを認識している人が多いと思います。
「自分はこれだけやってきた。だから評価してくれ」と言っている選手は、トップカテゴリーで戦った時に弱さが出てしまうと感じています。矢印が自分に向いていないですし、ミスが起きた時、評価されないときなど周りに文句を言ってしまう。そういった選手はあまり成長がないのかなと思います。
逆に、矢印を自分に向けている人は、未熟な部分や自分の強みに気付き「自分はまだまだ」と努力を重ねます。また、「誰かのために」という考えを持っているので、苦境に立たされた時に発揮する力が大きいと思います。
他競技であれば、他人の評価がよりシビアに見えてきますよね。サッカーや野球選手の場合、『お金』というカタチで見えてきます。
-矢印を自分に向けて、自分と向き合うということですか?
そうですね。多くの選手は自分を客観視できていないと思います。
例えば、走れない選手の場合、走れるように努力してなるのか、それ以外の自分の強みを見つけて他のところで努力するかの二択です。「お前走れないよな」と言われた時に「そうなんだよ。(でも他のところで活躍してやる)」という気持ちをもつことが大事だと私は思います。

フットサルを盛り上げるために
-経営者としても活躍していますが、今後の目標や、やりたいことについて教えていただけますでしょうか?
今年で36歳になります。W杯があれば日本代表として最後になると思いますし、個人的には選手としてのピークは過ぎていると感じています。
今後は、フットサル選手の価値を上げていく活動をしていきたいと思っています。憧れる職業の一つにフットサル選手が選ばれるようにしたいです。加えて、Fリーグの認知を広げていきたいです。
昨今、リーグの問題など噂になっていますが、私が中心となり、日本フットサルの環境を整えていきたいと考えています。
夢はチェアマンとなって、日本フットサル界を盛り上げていきたいと思ってます。