インタビュイー:山口 剛(やまぐち たけし)

レスリング選手。中学時代、柔道の練習の一環でレスリングを体験した後に本格的にレスリングを始める。

高校、大学、社会人の全てで全国優勝を経験。2016年に一時競技から離れたものの、翌2017年に再起を決め4月3日付でブシロードクラブに再入団した。

※写真は全てご本人からの提供


目次

・恩師の熱い想いに惹かれて

・スポーツから学び、スポーツへ恩返しをする

・レスリング界のパイオニアとして


恩師の熱い想いに惹かれて

―山口さんは、柔道から転向する形でレスリング選手となりました。いつ頃、何がきっかけで競技を変えたのでしょうか?

元々柔道でトップを目指していたんですが、中学時代、柔道の練習の一環で月に一度レスリングのトレーニングを取り入れたのが、レスリングとの出会いでした。

何度かトレーニングを重ねていると、柔道とは違うレスリングの魅力に心惹かれて行きました。

あと、恩師の存在も大きいと思います。

柔道では色々な高校から推薦をいただいていましたが、「たくさんいる柔道選手の一人として」見られている感じがしました。

岐阜県代表として埼玉で行われた全国大会に出場し、試合会場まで足を運んでいただきました。

当時の僕には、この出会いがとても大きかったですね。

―選手と指導者の出会いは人生におけるターニングポイントになると思います。ただ、良い指導者とめぐり逢える人と逢えない人がいると思いますが、差はなんだと思いますか?

素直でいることだと思います。自分が強くなることに対して素直ですし、人から勧められることやアドバイスに対しても素直に受け止められることが重要だと思います。

最初から反発してしまうと人間関係が上手くいかないですし、こういった機会に巡り逢うこともないと思うんです。

スポーツでも仕事でも素直でいることは大切なことだと思いますね。

―柔道からレスリングへの変更。そして、レスリングを続けることで発見や学びはありましたか?

実は・・・柔道は中学からはじめ、2年間ぐらいしかやってなくて、とにかく一生懸命やることに必死でした。

一方でレスリングと出会ってからは一生懸命やることに加え、考えるようになりましたね。

岐阜県のレスリングレベルが高くて、全国大会に出場する事すらも難しく、勝てない日々もあり、勝つためにはどうすればいいのかを自分で考えるようになりました。

ゴールを決めて必要なことを逆算し、トレーニングを取り組みました。ロジカルに考えるようになりましたね。

勝つための戦術、トレーニング、体重管理など考えることが増えていき、自然とロジカルな考えになったと思います。

スポーツから学び、スポーツへ恩返しをする

―山口さんは異なる各年代でトップに輝いてきたと思いますが、高校スポーツと大学スポーツの違いはどういったところにあると思いますか?

レスリングは個人競技なので、高校の時は自分がどれだけ勝ち上がる事ができるのかを考えていました。そのおかげでロジカルな考えが出来るようになりました。

大学は早稲田大学に進学し、リーグ戦優勝を目標としてレスリングに取り組んでいました。

伝統ある早稲田大学レスリング部を背負っているというプライドを持ち、レスリングをしていたと感じます。

個人に対してスポットを当てていた高校時代とは違い、チーム全体の力をいかに引き上げていくか、どうチームをまとめていくかを考えるようになりましたね。

大学時は、3年の時に62年ぶりとなるリーグ戦優勝をすることができ、前回優勝した80歳を超えるOBが泣いて喜んでくれました。

この優勝はすごく嬉しかったことを今も覚えています。自然と涙が出てきて、言葉にできない経験は初めてでした。

仲間と一緒に優勝した経験はスポーツの価値を感じることができた、人生で一番うれしい優勝です。

―この経験は今のレスリング活動にも影響していますか?

そうですね。優勝した経験もありますが、レスリングの楽しさを改めて感じた大学時代の過ごし方が大きいと思います。

高校時代は主体的ではありましたが、トップダウンの環境で取り組んでいたと思います。

ただ、大学では、コーチや監督がいる中で自分たちが主体性を持ってレスリングに取り組むことで勝利すること以外の魅力や、レスリングの楽しさに気付くことが出来ました。

だからこそ、社会人になっても続けたいと思いました。

―日本選手権5度の優勝はすごいことですよね。でも、リオオリンピックは惜しくも逃した。

そうなんですよ。最終予選に向けた練習の時に、ハムストリング(太もも裏にある大きな筋肉)が部分断裂してしまって、最終予選に出ることが出来ませんでした。不完全燃焼で後悔しています。

リオオリンピック後に一度レスリングから離れましたが、やっぱりレスリングが好きだからもう一度やりたいと思って復帰し、今もレスリングを続けていきます。

―一度現役選手から離れることで新しい発見はありましたか?

ありました。

レスリング界を盛り上げるためには、(自分が強くなること以外に)もっとレスリングの魅力を伝えていかなければいけないと思ったんです。

当時、イベント会社に勤めていて、プロスポーツ選手と距離が近い仕事を行っていました。

スポーツによって選手のストーリーや選手の見せ方など工夫していて、試合会場に来てもらうにはどうしたらよいかの試行錯誤していました。

僕の中でレスリングは魅力的で楽しいスポーツだと思うんですけど、まだまだマイナー競技だと感じています。

過去、オリンピックでいくつものメダルを獲得していますが、ルールを細かく知っている人は少ないですし、知名度のある選手も吉田沙保里さんか伊調姉妹ぐらいだと思うんです。

他にもたくさんオリンピックでメダルを取っている選手がいるし、オリンピックで獲得したメダルの数もレスリングがとても多いんです。

でも、ルールを知らない、選手を知らない、観客が少ないという現状があって、リオ予選の時は正直、レスリング界に不安や不満を感じました。

復帰した時はレスリングの魅力を違うアプローチで伝えていけば、認知も広がり、次世代の選手たちがより輝ける舞台を用意できるかなと考えていました。

実際に復帰していろんな選手と話をしている中でもレスリングを盛り上げたいと考えている選手がすごく多くいることが分かりました。

僕を応援してくれる人や僕自身の後悔もあり、レスリング界に貢献出来ることがあればと思って復帰を決意したんです。

レスリング界のパイオニアとして

―デュアルキャリア(スポーツと仕事の両立)を実践してらっしゃいますが、実践することで感じたことはありますか?

競技を引退したときのことを考えておくべきだと思います。

いざ、引退した時に誰かが受け皿になってくれると思ったら、誰もなってくれないですよね。

当然のことですが、このことを知らない選手が多くいることは事実であり、いざ、引退後のセカンドキャリアを迎えた時にハードルが高いと感じる選手が多いと思います。

やはり社会で活躍する選手が増えてこないとレスリング界に還元されないと思っていて、トップで活躍した人たちが社会貢献など良い影響を与えることがレスリングを盛り上げることに繋がると感じています。

結局、競技の引退後まで考えた育成や指導をしていない現状があるので、レスリング界も変わっていないんです。

おそらく、この数年間は、お客さんの数もアプローチの仕方も、正直選手から見たら変わったと言えないと感じてしまいます。

だからこそ、僕が一つのロールモデルとなり、競技と仕事の両立をしながらオリンピックを目指すレスリング界のパイオニアとして、セカンドキャリアに対して不安を抱えている選手や若い世代の選手に僕の姿を伝えていきたいと考えています。

―スポーツの経験が、仕事でも活きること、様々なフィールドで発揮できることを伝えていかなければいけないですよね。

仕事をすることで、スケジュール管理や練習への取り組みなど考える幅が広くなったと感じています。レスリング以外の世界に触れることで考え方が柔軟になりました。

仕事もスポーツもイレギュラーなことがたくさん起きますよね?

僕はリオオリンピックの選考会などの大事な試合前は緊張しすぎて眠れなくなることもありました。

でも、社会に出て様々な経験をすることでメンタルが強くなったり、柔軟に考えることができるので、今では大事な試合前でも「自分の出来る限りのことをしよう」というプラスに考えるようになり、体調も万全な状態に持っていくことができています。

仕事をすることは、スポーツ以外で学べることがたくさんあって、いろんなことを吸収できる環境があり、プラスになることが本当に多いですね。

―最後に、デュアルキャリアやセカンドキャリアについて考えておくことは重要でしょうか?

個人的には、もうそれを考えなければいけない時代が来ているのかなと思いますね。

昔はスポーツで結果を出せば、学校教員や指導者といった進路がたくさんあったと感じています。

ただ、今の社会は大きく変わってきていて、結果ではなく、その選手の人柄や競技以外に取り組んできたこと、総合的な人生経験などを重要視していて、経営者の方達も結果以外の部分に魅力を感じなければ、採用しようと思いませんよね。

教員になるにしても、すぐに常勤講師として安定した生活を得ることができるという話はなかなか聞きません。非常勤講師として実績や経験を積み重ねることが当たり前になってきています。今後は少子高齢化が進み、教員という進路も少なくなりますし・・・。

教員を例にしましたが、要は競技だけをやっていれば安泰だ!という時代は終わって、自分自身をブランディングし、魅力を付けていく必要があると思います。

「競技だけ」という考えは現役引退後に、次に続かなくなってしまうと思うのでデュアルキャリアとして仕事をしながら競技をすることや、競技引退後の生活も考えて現役生活を過ごすことが大切です。

時代の流れもありますが、デュアルキャリアを実践する時代が来ていると思いますね。

―山口さん、ありがとうございました!


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