パラノルディックスキー日本代表の藤田佑平。デュアルキャリア生活1年間を振り返る。

インタビュイー:藤田 佑平(ふじた ゆうへい)
パラノルディックスキー・ガイドスキーヤー。視覚障がいの選手を先導、自身も選手として活動をしている。平昌パラリンピックへ出場、次の北京大会に向けて日々奮闘中。
デュアルキャリアアスリートとして、株式会社スポーツフィールドに所属しながら、スポーツと仕事の両立に励む。
目次
・2019-2020シーズンを振り返って
・デュアルキャリアを実践してみて
・藤田佑平が伝えたいこと
2019-2020シーズンを振り返って
―藤田さん1年間お疲れ様でした。この1年間(2019年4月~2020年3月)の活動を教えてください。
この1年間は合宿や大会など様々な行事に参加し、ワールドカップ入賞を目指していました。その間に体験会や講演などを開き、プレー以外の取り組みも行っていました。
出社した時には、インタビューを受けたり、面談に同席したり、SNSの発信など、会社として新しいキャリアを確立するために活動をさせていただきました。
目標は大会で成績を出すのはもちろんのことなのですが、環境の変化に慣れることを重要視していました。例えば、トレーニング時間を確保できるのか、大会に向けたコンディションを上手く作れるのか、コーチやアスリートと今まで通り円滑にコミュニケーションをとれるのだろうか、といったことを模索していきながらデュアルキャリア(スポーツと仕事の両立)として活動のベースを構築するようなイメージを持って過ごしました。
―どのようなスケジュールで活動をしていましたか?
基本的に、日本代表の活動スケジュール(合宿や大会)を中心に据えながら、合間で個人として競技体験会の主催や、各種講演会への参加を行いながら、当社にも出社をしていました。

―代表合宿と個人合宿が多いですね。
まず個人合宿はトレーニング時間の確保が一番の目的になります。普段、働きながらトレーニングをすると、どうしてもトレーニングする時間が2~3時間/日程度になってしまうので。
ただ、個人合宿と言っても、健常者、パラアスリートと区別せず、周りの代表アスリートや合宿先の地で活動しているアスリートに声を掛けて一緒に活動するので、結局は代表合宿のようになる場合もあります。
時には合宿先の地元クラブにも声を掛けて、パラスキーの体験会や交流会を開催するなどいろいろな人を巻き込みながら「いいものをつくろう!」と思って取り組んでいます。
代表合宿は、純粋にスキーに打ち込むことのできる時間を過ごす事ができます。
いつも以上に今年は「この合宿は何のためにやっているか」という目的意識を常に持って合宿に臨んでいました。
アスリートとしてトレーニング時間は確保を出来ているけれど、デュアルキャリアとして、ビジネスのことも意識しなければいけないと思っていて、体験会など積極的にやらなければと思って行動していたので、プレーヤーとビジネスマンの切り替えが難しかったと感じています。
さらに大変だったのが、スケジュール調整の部分でした。普段は15時ぐらいまで働いてからトレーニングに行っていますが、コーチとしてのやり取り、合同トレーニングの時間調整、大会やイベントの日程調整、そして、会社行事など調整することが多く、時間をどれだけうまく使えるか気を付けていました。

日本代表では年間スケジュールが決まっています。ただ、様々な都合で合宿日程が変更することや、急遽合宿やイベントへ参加するような指示があったり、大会のキャンセルなどに対応しなければなりません。先日もコロナの状況で大会がキャンセルになりました。デュアルキャリアとして初年度だったので、すごく大変でした。
―会社での業務はいかがでしょうか?
スポーツフィールドのスタッフとして、体験会の主催や講演会に参加しておりました。また、人財の方との面談や新規営業に同席するなどしておりました。その他にもOCRというAIを使用したツールでアンケート集計やインタビューの文字起こしなどの業務もやっていました。今思えば、リモートワークを先取りしていた気がします(笑)
―業務で特に気を付けていることはありましたか?
コミュニケーションを取ることは常に気を付けていましたね。本当に必要な事なのか?と思うことまでホウレンソウ(報・連・相)をしていました。おそらく、面倒くさいなと思われていたでしょうね(笑)
あと、同じ部署の社員からの意見で始めたことなのですが、「W杯チャンピオンへの道」というグループチャットを作成してもらい、日々の取り組みを報告しています。
実は大きな影響があって、トレーニングの振り返りになることに気付きました。今までトレーニングをまとめたり、感じたことを文章化したりはしていましたが、写真や動画を使ってはいませんでした。なので、チャットを作成してからは、自分の考えやこの時こんな感じなんだというのが、より見えるので参考になりますし、どのように他の社員に伝えたらわかりやすいのかを考えるようになりました。続けてきてよかったと思います。
デュアルキャリアを実践してみて
―アスリートとして変化はありましたか?
大きな変化としては、多くの支えがあって活動できているのだなと改めて感じることができました。今までは大学院と日本代表の中で活動をしていたので、近いところですと家族やコーチやチームメイト、スポンサー様くらいしか繋がりがありませんでした。
今は、会社という組織に所属することで一つの繋がりができました。合宿や大会後に出社をすると「お疲れ様でした!」とか「成績はどうでした?」や「藤田さん、お土産は(笑)?」と話しかけてくれることが嬉しいですし、スポーツフィールドの温かみを感じました。
考え方も変わりました。
今まではアスリート的な目線とコーチ的な目線ぐらいでしたが、ビジネスというマインドが入ってきたことで、「これをやったら楽しそうだな」とか「この取り組みは良いビジネスになるのではないかな」などを考えたり、気になる事はその場で調べるなどのクセがつきました。
また、デュアルキャリアとして働く中で、他のデュアルキャリアを実践している人がすごく気になるようにもなりました。「この人はどのような働き方なんだろう?」、「どのように企業を選んだのかな?」「人財紹介を何か活かすことができないかな?」と思うことが増えました。働くことや働いているアスリートに関して、興味と疑問を持つようになったと思っています。
―トレーニングでの意識は変わりましたか?
大きく変わりましたね。入社当初の4月~6月ぐらいまでは無理やりトレーニング時間を確保しようとしすぎてオーバートレーニングをしていました。張り切っていたんでしょうね。不慣れな仕事をして、その後、トレーニングを続けているうちに「このままだと体も心も持たないな」と6月後半ぐらいから感じていました。

そこで、今までのトレーニングを見直して、トレーニング方法を変えてみようと思いました。そうしたら、今までトレーニングの量を増やそうと時間をかけすぎていることに気付くことが出来たんです。
デュアルキャリアになってからは量よりも質を取るようになりました。トレーニングのレパートリーを増やしたり、鍛えたい部位に直接効果があるようなトレーニングを調べて選んでみたり、質にこだわるようになったのかなと思います。
あとスポーツフィールドはいろんなスポーツ経験者がいるので、他のスポーツのことも参考にしながらやっています。以前よりもトレーニングの質のことを意識できるようになりましたね。
トレーニングを行う中での目標は、自分自身の様々な体力の向上とガイドスキーヤーとして技術技能のレベルアップを意識していました。
2019-2020のシーズンは競技パートナーとの時間が少ないことが分かっていたので、自身の体力向上を意識して持久力・最大パワーを上げることを考えながらトレーニングをしていました。また、様々な視覚障がいのあるアスリートのガイドやコーチをすることで、ガイドとしての能力やコーチの能力も向上したと思います。
2020-2021シーズンはパートナーとの時間が増える予定なので、ガイドスキーヤーとしての声掛けやコーチングの能力、状況を判断し即興で戦術戦略を練るような能力の強化に力を入れていきたいと思っています。
―2019-2020シーズンの戦績はいかがでしたでしょうか?
個人としては南関東大会で優勝させていただきましたが、国民体育大会(国体)では15位という成績でかなり不本意な結果で終わりました。準備が足りなかったなと思います。
ガイドスキーヤーの試合はスウェーデン大会を予定しておりましたが、コロナの影響で中止になり、昨シーズンはありませんでした。残念です。
―コーチとしての変化はありましたか?
アスリート自身の環境をすごく気にするようになりました。これはスポーツフィールドが就職支援をしている関係があります。
働き方の情報だとか、色んなアスリートの情報が入ってくるので、僕がコーチングをしているアスリートがどのような働き方なのか?それらは果たしてトレーニングに時間を割くことができる働き方なのか?ということを考えるようになりました。
自らがデュアルキャリアを実践しているので、社会人として、アスリートとしてのギャップがあることへの悩みも聞けるようになりコーチとしての引き出しが増えたと思います。
実際、社内でもデュアルキャリアとして働いている方が多いので、社内にたくさんヒントがあると思います。色んな働き方があり、いろんな考え方があり、そこにはもう、パラや健常者など関係なく、様々なバックグラウンドの中で活動をしている人がいる、ということを知る事が出来ましたし、刺激をもらっています。
―仕事から学んだことや受けた影響はありますか?
色んな視野で物事を考えられるようになれたと感じています。今までの考え方が狭いことに気付きました。あと、何かと対応する時間が早くなったと思います。当たり前のことなのですが、お願いされたことに対して素早くに反応するといったこともできるようになったのかなと思います。
社員が人財と面談している話を聞くと、僕の活動にすごく活きてくる部分があります。コーチとしてアスリートと一緒に目標設定をするときにすごく似ていて、とても参考になっています。

藤田佑平が伝えたいこと
―デュアルキャリアにチャレンジしての感想は?
即答したいのが、(アスリート一本よりデュアルキャリアを)絶対にやった方がいいと思っています。
物事の考え方が変わりますし、会社に入ることで組織の一員としていろいろな気付きを得ることができます。社会の仕組みもそうですね。アスリートの活動だけではなかなか気づくことが出来ないと思います。
デュアルキャリアを実践することはものすごく意味のあることだと思いますよ。
もちろん、トレーニングの変化も今後の人生に活きてくるし、いろいろなチャンスが広がって本当に視野が広くなったなと感じます。
SNSもそうでした。僕自身、元々SNSが好きなタイプではなかったのでFacebookは3か月に1回ぐらいしかアップしないですし、平昌パラリンピックの時も全く情報を発信していませんでした。
今思えばうまく利用性すればよかったと後悔しています。今、毎日投稿していますが、投稿しないとソワソワしてしまいますよ(笑)
SNSをきっかけにいろんな方との繋がりが増えるのでアスリートはチャレンジした方がいいと思いました。もちろん、リスクヘッジしながらですが。
ただ、本当に身体的にも精神的にも大変です(笑)
―コロナウイルスの影響で活動に制限があると思いますが、どのような影響を受けましたか?
屋外のトレーニングに制限がかかりました。広い公園でエクササイズをしたり、夜遅くにトレーニングを行っていますが、ローラースキーという専門的なトレーニングが出来ないことがつらいです。ただ、もっと厳しい活動状況の方たちがたくさんいるので、活動ができているだけでありがたいと思います。
それともう一つ室内トレーニングを考え直すきっかけになりました。
エアロバイクを買ったり、懸垂器具や、エルコリーナという専門の器具も導入しました。また、みんなでトレーニングを行うために、オンライントレーニングも実施しました。誰かと一緒だといつも以上に頑張れるので、個人的には好きですね!そして、地理的な問題でなかなか会うことのできないアスリートとも繋がれるので、オンライントレーニングをやれば、質を高められると思います。
―2020-2021シーズンの目標を教えて下さい。
2022年の冬季北京パラリンピックに出場するための権利を勝ち取ることが一番の目標になります。そのためには世界大会で良い成績を残し、ポイントを獲得しなければいけません。今年のワールドカップでは入賞し、北京への切符を掴みます!
デュアルキャリアについてもいろいろなことを試してみたいと思います。
まだデュアルキャリアアスリートとしての最適解がないと思うので、いろんなことにトライアンドエラーを繰り返しながら、より良いものを選択できるように、自分自身が実験台となって探していけたらいいなと思っています。そしてもっともっと、デュアルキャリアの価値や楽しさ、辛さを広めていきたいです。
社内、社外問わず、デュアルキャリアを実践している方の活動が僕の力になっていますし、「もっと頑張らないと」と思わせてくれます。日本代表だからとかレベルは関係なく、デュアルキャリアをチャレンジする人が増えればハッピーだなと思います。
この1年も頑張ります!

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