インタビュイー:井戸伸年(いどのぶとし)

元プロ野球(NPB)選手。高校、大学、社会人、メジャーリーグ、プロ野球を経験し、現在は関メディベースボール学院の理事長を務める。

野球界を変革するべく、日々活動する。


【選手歴】
育英高等学校→徳山大学→住友金属→住友金属鹿島→シカゴホワイトソックス→大阪近鉄バファローズ (2003 – 2004)→オリックスバファローズ (2005)

【監督・コーチ歴】
・関メディベースボール学院 GM兼総監督
・Honda鈴鹿 コーチ
・徳山大学硬式野球部 コーチ
・追手門学院大学硬式野球部 監督
・大阪経済大学硬式野球部 コーチ
・オリックスバファローズジュニア講師

【目次】
・関メディ井戸伸年が考える成長期への指導方法について
・少年野球界の課題から少年野球を考える
・イノベーションを起こすために


関メディ井戸伸年が考える成長期への指導方法について

 

―井戸さんは様々なカテゴリーで野球を経験されたと思いますが、井戸さんの時代と今の野球界で感じる違いはありますか?

 

自分がやっていた頃と今を比較すると、野球を取り巻く環境は全く違いますよ(笑)私が小、中学生の頃は野球が大好きな子がもっと大勢いました。実際、今よりも競技人口全体も多かったんです。私はいつも、サボれるものならサボりたいという気持ちを持っていましたが(笑)

 

今だから言えますが、昔は体罰や暴言がたくさんあったと思います。指導も悪いところばかり指摘するような指導者が多くいましたし、選手の人数が多く、“淘汰された人だけでやればいい”という考えを持つ人も多かったんですよ。ふるいにかけて残った人が優秀という理屈です。

 

今の時代は、部員数を減らさないような活動が重要だと考えています。学校は生徒数を増やさないといけない工夫をしていますから。野球界としても選手数=野球が好きな人の数と考えた方が良いです。

 

でも、特にジュニア層はプロフェッショナルな指導者が少ないんです。それにより、部員数に対して指導者の数が少ない分、練習の質は当然落ちてしまうなどの問題が出てきます。

 

ちなみに、高校野球(硬式)の人口推移として、平成26年には最多の170,000人がいたのですが、令和元年になると144,000人と減っています。また、高校1年生で野球をやろうと思っている人が、ピークで64,000人(平成17年)いたのが、今では48,000人(令和元年)まで減りました。少子化が拍車をかける形で野球人口が明らかに減っています。

 

※下記日本高等学校野球連盟資料より
【高校野球(硬式高校1~3年生)の人口推移】
平成元年(1989年):141,000人 継続率73%
平成26年(2014年):170,000人(ピーク) 継続率88%
令和元年(2019年):144,000人 継続率90%
※継続率とは1年生から3年生まで野球を継続した人数

 

だからこそ、そういった様々な課題を変えるために、野球界を変革するために活動をしています。

 

我々、関メディベースボール学院(以下、関メディ)は、「好きな野球で成功体験を増やし、1秒でも長く、一人でも多く、野球を続けて貰いたい」という想いで活動しています。

 

「楽しさ=成功」だと考えていて、成功体験をいかに作るかを年代別に応じたやり方で指導しています。特に、成長段階の小、中学生を指導するには専門的な知識が必要になります。だからこそ、知識を持った専門家を輩出していかなければいけないと思っています。

 

―今の野球界を年代別のピラミッドで例えると、小・中学生のピラミッドの下の部分が狭くなっている印象があります。

 

 

そうですね。大きな課題として、小・中学生の野球人口減少は顕著であり、あまり成長していないと思っています。その要因として、指導者が成長してないからだと考えています。基本的に少年野球はボランティアの指導者が多いんです。私はそれも一つの良くない理由だと思っています。

 

ボランティア指導者は指導する上で正直なところ責任がありません。専門家が指導しないと当然怪我が増えてしまいますし、技術の向上度合いも違います。

 

アメリカの場合、指導者のルールがきっちりと分けられていて、自分の専門以外の指導をすると契約違反になるんです。また、チームごとに指導バイブルがあって、チームに統一した教本に従って指導していきます。

 

日本の場合、プロ野球でも走塁コーチがバッティング指導をするなど、同じチームでも指導者が違えば指導方針が違うことが日常茶飯事に起こるシーンを見ます。選手からすると何が正しいのか迷ってしまいます。

少年野球界の課題から少年野球を考える

―確かに少年スポーツの指導者は保護者などのボランティアが多いと思います。指導者の育成教育や仕組みルール化は課題かもしれませんね。

 

そうですね。関メディでは、チームで統一した指導バイブル(私の考え)をもとにやっていますし、当然プロ経験者も集めています。基本的に考えを共有した人間しか指導者にはいません。

 

また、小・中学生の基本的な指導法はトレーナー中心で体の使い方を教えています。プラスアルファで野球の技術を教えていくという感じです。

 

この時代、YouTubeを見れば、様々な指導法を見ることができるじゃないですか。でも、自分で試したり、細かい内容まで理解しているかが重要になります。

 

―その考え方というのは、井戸さんが経験されたことの中で思ったことなんですか?

 

そうです。経験と現場指導の実体験からです。例えば、私が小学生の時は「ボールは上から叩け」というバッティング指導をされました。その意味がわからなかったんです。ボールを叩いてどうやって前へ飛ばすのかが。質問しても、特に理由はなく、「いいから上から叩け」という指導でした。

 

結局、指導者が理論を頭で理解していないので、自分の感覚だけで指導して、説明をしてくれないんですよ。

 

そう考えた時に、まずは基本的なカラダの動かし方を理解していて、指導することが重要だと気付きました。だからこそ、トレーナーの力は絶対必要なんです。そして、成長期から知ってもらう環境を作りたいという想いから今の活動があります。

 

―しっかり言語化して伝えるということですね。

 

言語化すれば指導者の伝え方も変わります。まず、暴力・暴言が減りますよね。昔は、言葉が出ないから手が出てしまいました。指導者が理屈を理解していないから、解決策が出ずに手を出してしまう。結局は指導者の責任なんです。

 

そして、野球を好きでいてもらう、興味を持ち続けてもらうためにはチームメイトや指導者などの環境が影響していると思います。

 

よくあることで、環境を理由に野球が嫌いになり、やめた後に野球自体は好きだったことに気付く人が多いんです。それってすごくもったいないと思いませんか?環境のせいで野球に対する拒否反応が出てしまうようなことを減らしていきたいんです。

 

―選手自ら興味を持つことや指導者に対して質問ができる環境作りが必要ですよね。

 

指導者と話せる環境を作らないといけません。例えば、関メディでは私は怖い存在になっていて、逆に若いコーチは、選手とよくコミュニケーションを取る役を担ってくれています。組織の中ではルールや規則に厳しい人も絶対必要で、それを踏まえて様々な役割を作っておかないと絶対うまいことは行かないですよね。監督、コーチ、トレーナーとそれぞれの役割があるわけですから。肩書ではわからない役割があることも組織として大切です。

 

会社のように役割ごとに分かれている組織での最終決定は、「~に関しては監督が行うこと」、「~に関してはコンディショニングコーチが行うこと」というように意思決定権が部門ごとに決まっていることがベストだと思っています。そして総合的なことやコーチ間で決まらない時の最終意思決定権は監督で良いかと思います。

 

―ボランティアの指導者以外で課題に感じている事はありますか?

 

保護者の負担ですね。他のスポーツに比べて保護者の負担が大きいと思います。少年野球界にはよくある、保護者会や保護者のお茶当番ですね。監督が座れば飲み物を持ってきたり、食事の用意、グラウンド整備、バッティングゲージの設置、審判をするなど、保護者が野球以外の仕事を行う習慣があるんです。他のスポーツだとあまりないんじゃないかなと思います。でも、それが野球界の普通なんですよ。

 

 

チームによっては保護者のサポート具合で試合の出場機会に影響すると聞いたこともあります。おかしな世界ですよね。例えば、親が保護者会の代表だったら試合に出られるとかおかしくないですか(笑)

 

チームが試合に勝つためにベストなメンバーがレギュラーであるべきです。指導者がボランティアであることで逆にお茶当番や、保護者会という概念が生まれてしまうとも思います。学習塾やピアノ教室には保護者会やお茶当番はありませんよね?

 

スポーツでもスイミングスクールやテニススクールには保護者会もお茶当番も聞いたことがありません。

 

また、野球は小学生~中学生の間は試合の出場機会が多い方がレベルアップします。なので、上手くなるには試合の経験をたくさんしなきゃいけないんですよ。本当にレベルを上げるなら出場機会を均等に設けた方が良いんです。チーム内での紅白戦含めてです。

 

また、野球をやっている子たちは、12歳で大きな進路選択の機会があります。中学校に上がる時に硬式か軟式なのかを選択し、どこのチームを選ぶのかによって、進学できる高校に大きな差がでてきます。

 

こういったことも保護者が必要以上に関与し、頑張らないといけない環境を作っているのかなと思っています。

 

保護者の方には、保護者会の担当やお茶当番があるからグラウンドに来るのではなくて、自分たちの子どもやチームを応援したくて自然とグラウンドに行きたくなるような環境を作るべきなんですよ。

 

チームによっては保護者会の中に遠征バスの運転手さんや、女性部長といった役職があるチームまであります。驚きです。

 

「野球は観るには良いが子どもにやらせるには親が大変」という状況では、子どもがやりたくても躊躇する親が出てくるのもわかります。野球は楽しい、素晴らしいスポーツだということを広げて、野球界、スポーツ界を発展させていかないといけないんです。

 

スポーツは大きな感動を与えることができますよね。筋書きのないドラマがあったり、選手一人ひとりの人生や背景があったり。もっと多くの人が感動できる機会を増やしていきたいんです。

イノベーションを起こすために

―野球界には独特なルールがあるんですね。指導方法はサッカーの方が進んでいる気がします。選手として一流でも、指導者を行う上では、資格を取得し勉強を続けなければいけないですから。

 

野球の場合、プロのブランディング化が成功し、興行として日本のスポーツで一番成功をしています。観客動員数も右肩上がりですし、グッズ販売も順調ですよね。日本のプロスポーツでは野球が頂点にあると思います。高校野球の場合、地方大会予選から観戦料(入場料)がかかりますからね。地方予選からTV中継されるのも野球だけです。アマチュアでも、お金を払ってでも観たいという魅力や感動があるからなんです。人気スポーツなだけに、競技人口が減っていることや指導力の遅れなど、危機感を持っている人がまだまだ野球界には少ないです。

 

子ども達は変わりますし、大人も変わらないと子どもに追い抜かれるだけだと思います。それぞれが成長できるような環境を作っていかなければと思いますね。

 

関メディでは試合映像など動画配信をしています。保護者は子どもの活躍を見ることができますし、各高校も動画を見て、注目選手を探せるようになればいいと思います。データやサインを気にして情報を出さないチームが多いですが、僕らは動画を出して、やり方もマネしてもらいたいと思っています。

 

どんどん情報を出してお互いに成長し合えるきっかけになれば嬉しいですよね。もちろん公式戦で使うようなサインなどまで情報を出せとは言いませんよ(笑)

 

我々のように、新しいやり方をしているチームは「勝つこと」が本当に重要になってきます。勝つことで、周りのチームが我々に興味を持ち、認められますから。今、少しずつ結果がでてきているかなと思います。

 

―井戸さんの指導方法は他のスポーツでも活躍すると感じました。

 

私もいろんなスポーツをやってきました。キャプテン翼に憧れてサッカーもやりました(笑)色んなスポーツから学ぶことがありましたし、だからこそ、基本的なカラダのことや食事のことなども大切にしています。

 

指導者にはスポーツ以外にも、他に活かせることがあれば、勉強しようと伝えています。SBT(株式会社サンリが行うスーパーブレイントレーニング)の3級ライセンスも全員もっていますよ。もちろん、私自身も必ず勉強して、良いものはスタッフにも共有しています。

 

 

―コロナウイルスの中でスクール運営はどうされているんですか?

 

我々関メディはチームの教科書(バイブル)を作っていて、フォーメーションの勉強など行っています。あとは、家でできるトレーニングなどトレーナーの講義をオンラインで行っていますね。もともと、週1回は講義の後に練習を行っていたので、体を動かせないなら頭を動かそうということで、頭を使った練習をしています。

 

学べる材料はあるので知識を詰め込める良い時間になったと思っています。これも、しっかりとサービスとして提供する為に、教科書(バイブル)を作っていますし、野球の技術だけではない、カラダの作り方や動かし方など、基本的な知識を身に付けてほしいという想いが強いこその取り組みです。

 

―最後にこれからの野球会に期待することはりますか?

 

10年後に多くの少年各野球チームで関メディのスタイルが定着していればいいなと思います。もちろん、我々もすべての都道府県に関メディベースボール学院を広げ、指導者の育成に努めていきたいと考えています。

 

 

野球をやりたい!と思う環境をつくり、好きなことに打ち込むことで人として成長してもらえたらすごく嬉しいですよね。中には苦しいことも経験すると思います。でも、好きだからこそ、乗り越えることができますし、仲間の大切さにも気付くことができると思いますから。保護者も自然とグラウンドへ行って子どもやチームを応援しているような姿が見ることができれば幸せです。

 

そして、スポーツをして、見て、感動してもらいたいです。

 

今後も感動する環境を増やすための環境づくりに頑張っていきます!

 

―井戸さんありがとうございました!

 


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