インタビュイー:竹下佳江(たけした よしえ)

元バレーボール女子日本代表。“世界最小最強セッター”世界が恐れる日本の司令塔。高校卒業後実業団入り、翌年に代表デビュー。シドニー五輪出場を逃し一度は引退。復帰後、代表主将も務め、五輪3大会出場で2012年のロンドンでは銅メダル獲得に貢献。翌年に現役を引退。現在は結婚・出産を経て、プロバレーボールチーム「ヴィクトリーナ姫路」の監督業の他、バレーボール教室の講師や解説者としても活躍中。バレーボールの普及活動に力を注いでいる。ニックネームはテン。

※写真はご本人からの提供


全体を把握する=人間力

―竹下さん貴重なお時間をいただきありがとうございます。お会いできるのを楽しみにしておりました。早速ですが、竹下さんが考える人間力についてどんな考えをお持ちでしょうか?

私が考える人間力は「全体を捉え、ものごとを把握する力」だと思っています。特にバレーボールは一人で解決できるスポーツではないので、全体を把握できる選手は上を目指していける選手につながると思います。そういう人たちは、社会に出ても色んな現場で活躍する人財になると思うんです。

―全体を捉え、ものごとを把握する力を得ることは大変だと思います。竹下さんご自身がこの考えにたどり着いたのはいつ頃からでしょうか?

「セッター」というポジションは周りを見て判断しないといけません。でも、若い時を振り返るとワガママにやっていたこともあったと思います。年を重ねるごとに、役割や立場が変わる中で自分が成長出来た部分と腹落ちした部分があったと思います。

今も選手たちに広い視野を持ち、全体を把握することを意識するように伝えています。

―選手自身が納得するには、選手の受け取り方やタイミングが非常に重要だと思います。

私の場合、キャプテンを経験したり、ポジション的に監督が考えていることを一番理解し、表現しなければいけなかったので、全体を把握する大切さにいち早く気付けたかなと。

人との出会いも大きく影響しています。色々な監督や選手とプレーしましたが、良い面も悪い面も含めて沢山の気付きをいただきました。

一度バレーボールから離れた時期があったんですけど、そこがターニングポイントになっています。それまではバレー関係者しか接点がありませんでしたが、色んな人と出会い、話を聞く中で自分自身が少しずつ変わっていけたと感じます。

―一度距離を置くことは、違う視点でものごとを判断する力が付くと思いますがいかがでしょうか?

その通りだと思います。実際、私たちのチームにケガをした選手がいますが、ケガをしていなければ、見えなかったものが見えてきたと思うんです。ケガをしたことは悔しいし短期的にはネガティブに捉えがちですが、時が経つとケガから学ぶこともあったと感じることは絶対あると思います。

―私たちはキャリア教育や大学授業などに関わらせていただくことがありますが、スポーツをしている学生に伝えたいこと、また気付いて欲しいことがあるとすればどんなことですか?

夫(元プロ野球選手:江草仁貴さん大阪電気通信大学硬式野球部コーチ)が学生のコーチなので、近頃の学生のことをよく聞きますが、技術だけではなく人間教育をされている子は挨拶をすることや感謝の気持ちを忘れずにいるなど自立している子が多く、逆に技術ばかりを教える指導者しかめぐり逢わなかった子は、少し考え方が甘いと感じる場面があるそうです。

まだ若い時期なので、成長できる大きな部分が伸びしろかもしれないですが、意思決定においては自分で判断し、思い切って行動をする事が大切です。周りに軌道修正ができる大人がいますから。

―甘えが出ているようにみえる子も、きっかけとチャンスにめぐり逢えていないのかもしれない。

そのとおりです。

やろうとする意志が明確かつ具体的で、色んなことを描けている選手は、(思い切った行動をとること)良い選手になっていきますし、社会でも必要とされる人間だと思います。

―教え子を評価するならば、技術力(競技力)と人間力で100点満点の場合、竹下さんの振り分けは50点ずつですか?

どちらの振り分けが重要などとは言えないですね・・・両方高い人は人を惹きつけるし、社会からも求められるので理想だとは思いますが。

―裏を返せば、競技力だけが高い選手はスポーツメディアから採り上げられるものの、それ以外の世界から求められることは無いだろうと。

そうですね。特に私たちはプロ選手なので、やがてバレーボールの現役生活が終われば、一般社会に出ていかなければいけません。仕事が出来る出来ないはありますが、それ以前に人間力は必ず見られると思います。

バレーボールから学んだこと

―バレーボールから学んだことが活かせたと感じたことはありましたか?

視野が広がったと思います。人に寄り添えるというか、困っている人に手を差し伸べてあげられる、それは他者を見ているから出来ることだと思います。

例えば、表情が曇っている人がいたら、「どうした?今日なんかあった?」と声を掛けることで、相手は悩みを吐き出すことが出来たり、困っていることに気付くことができますよね。

ちょっとした気遣いかもしれませんが、相手の変化は誰よりも気付くかもしれないと自分では思っています。

―小さな気遣いはチームスポーツでは大切です、自分の行いが他人に何かを気付かせることもあると思います。

現役のときは結果を残さなければいけないという想いが強かったから他人に気付かせるというより、いかにチームが良くなるかを考えていたと思います。結局、指摘しても人はなかなか変わらないので、どこかで自分が気付くしかないんです。

―そうですね。今、指導される時はいかがですか?

その都度「今のプレーはちょっと違ったよね」とか「自分ではどう思った?」などコミュニケーションを取りながら、選手に指導しています。

―コーチングは「如何に良い質問ができるか」ということがあります。「気付き」を与えるための質問ですね。

正直なところ、昔のスポーツ界は一方通行のコミュニケーションが多かったと思います。選手は「はい」か「いいえ」という感じでしたが、それだったら何も進まないじゃないですか。

今は、お互いに質問しながら指導することを心掛けていて、最後には「あなたはどう思ったの?」と聞いています。

―以前インタビューさせていただいた全日本大学軟式野球の代表監督も選手と同じように、本気になることが大事とおっしゃっていました。技術以外で竹下さんは選手へ指導することはあるのですか?

私たちスタッフ側の人間は、選手たちを上手くバックアップしてあげないといけない。選手は年齢の幅もあるので、選手同士で解決できることや教育できることはなるべく選手間で解決してほしいと思っています。私が直接出るのは最終手段です。

―大切にしているのは、監督・スタッフ陣。選手とのコミュニケーションですね。会社でも同じだと思います。お互いに話し合う文化がなければいけません。

私もGMとは密に連絡を取って現場の考えやGMの意見などを話し合う機会を設けています。

―チーム作りには必要不可欠ですね。お話をお伺いしていると、監督はあくまでつなぎ役なんだと思います。

今の私があるのは、コーチ、マネージャーやGMに助けてもらえているからだと考えます。だからこそ、たくさんのコミュニケーションを意識して行わなければいけないと思いますね。

変わるスポーツ界

―竹下さんのお話をお聞きすると、トップダウン型ばかりでなく、ボトムアップ型にスポーツ界が変わってきているなと思いますが、理想はありますか?

そうですね。自らの指導を振り返ると、まだまだトップダウンでやっているなと思うことがあります。自分で決断して、自分の答えを出すこともありますから。

ただ、オーナーやGM含め、自分より経験が豊富な方と出会って感じたのは、周りの意見を聞くことと相手を尊重することの大切さです。悪い風習は少しずつ省かないといけないですし、チームの意見を聞けるように自分自身はなってきてますね。

―今、直接会って話すことや電話ではなく、LINEでのやりとりが増えてきましたが、コミュニケーション手段で気を付けていることはありますか?

私の場合、基本的に現場で解決しようと思っているので、選手とは面と向かって話すことの方が多いです。そんなに選手とLINEでコミュニケーション取ることはないですね。

―最近では、LINEのみでコミュニケーションを取る人も増えてきています。

自分たちが今まで生きてきた考え方とは今の時代は違いますが、拒絶ではなく、一旦受け入れて考えていかないといけない。「この子たちはこの子たちの考えがあるだろう」というように自分自身を変えていく。

―逆に、竹下さんが変わるのではなく、チーム自体で変えてはならないことはありますか?

一人ひとりに組織を考える、つまり全体を俯瞰して把握する思考は持っていてほしいですね。バレーボールはチームスポーツだから足並みを揃えないと勝てません。その中で自ら目標設定をして歩んでいく。

団体スポーツでありがちなのは、困難や挫折を迎えた時に、マイナスな方へ行こうとする選手が出てくるときがあります。人が前に進むときに足の引っ張り合いをするようなことはしてほしくないです。

チームには必ず一人ひとりの役割がある

―今、困難や挫折を迎え、悩んでいる方もいると思います。「誇れる経験」と「誇れる実績」の具体的な内容は人によっても異なっているものの、「誇れる経験」を積み重ねていくことは大事だと思います。スポーツであれば、優勝した人やレギュラーが偉いと思ってしまうことがありますが、一人ひとり役割はありますし、誇れる経験は違います。

先日のラグビー日本代表は、絵に描いたように素晴らしいチームでしたよね。それこそサポートスタッフや、ウォーターボーイ(ボトル渡す選手)など、ゲームメンバーに入らない選手がどういう働きをしているかが、チームの強さにつながっていると思うんですよ。

控えメンバーは、心の中では悔しさを持っていたと思うんです。でも、チームのために何を優先するべきかを考え、自ら行動しています。バックアップのサポートメンバーの存在は、チームを左右する存在と言っても過言ではないと私は思います。

ロンドン五輪の時に1人サポートメンバーで石田瑞穂という選手が一緒に帯同してくれました。彼女は(出場メンバーと同じ)ユニフォームを着れない中、ロンドンに合流してくれて、練習相手や雑用など、嫌な顔1つせずにチームのために一緒に戦ってくれたメンバーです。そういう選手を見て心が動かない選手は誰一人いなかったし、その選手がいたから戦えていると私たちも思っていました。彼女のような存在はチームにとって非常に大きな力になると思います。

―たとえ、メンバーに選ばれなくても、嫌な顔をせずに力を発揮できる選手がいることは大きな影響を与えると思います。

人にどう思われるとかではなく、その先の事まで考えてやってくれていたのかなと思いますね。チームには欠かせない存在というか、自分の気持ちを犠牲にしてでもやり遂げるという気持ちは、その先の人生にも繋がっていくと思いますし、技術的にチームに貢献できない人がいたとしても一人ひとりに役割があると思うので、そこをどう考えて行動に移せるのかが重要だと思いますね。

―チームには必ず一人ひとりの役割がある。スポーツでも、仕事でも同じ考えだと思います。

できれば「自分はこういう役割だな」と考えて見つけて行動に起こせる選手がたくさんいてほしいなと思います。でも、自分自身で解決できない選手もいるので、そういう選手に対しては、ヒントを与えていければと思います。

―組織として強い集団の条件はいくつかあると思いますが、どのような条件が必要だと思いますか?

自立した人間がたくさんいるチームは強いと思います。

あと、目標設定がはっきりしているチームです。チームって仮に仲が悪くても同じベクトルで足並みを揃えているとより強くなると思います。

自分の気持ちに正直に、自分が決めたらその道に進んで後悔しないように、そして逃げ道を作らないように。

―周りの意見を参考にするのは良いが、自分の道は自分で決めるべきだと思います。

バレーボールとは

―最後の質問になりますが、竹下さんの中で「バレーボールとは」と一言で伝えるならば、なんと答えますか?

「人間育成」かな。バレーに育ててもらい、バレーを通じて人を育てていると思います。

―人間育成のツール。大きいイメージでいうとバレーだけでなくすべてのスポーツでそういうイメージですよね。

きっとプレー以外で学ぶことがたくさんあると思うんですよね。そこに気付くか、気付かないかで人の成長って変わると思います。

あと、人との出会いですね。出会いは財産と言いますが、良い人の周りに集まる人って良い人だろうし、悪い人たちの周りにはそういう雰囲気の人が集まるとすごく感じます。私はたまたま良い人に出会えて学ぶ機会をもらっているというのはすごく人に恵まれているなって思います。

―類は友を呼ぶという言葉がありますもんね。

私の場合、運が良かったと思います。良い人たちに出会えたことは大きな財産です。

だからこそ、これからもいろんな人とコミュニケーションを取って、色んなところに転がっているヒントを見つけていきたいです。

―竹下さん、本日はありがとうございました!

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